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この記事でわかること
IoTシステムの通信手段を検討するとき、「LTE-MとNB-IoTのどちらを選べばいいか」という疑問に直面する担当者は多くいます。両者はどちらもLTEネットワークを活用する省電力IoT向け通信規格ですが、得意とする用途が異なります。
この記事では、LTE-MとNB-IoTの技術的な違い・向いているユースケース・選定の判断基準を解説します。
LTE-MとNB-IoTとは
LTE-MとNB-IoTは、3GPP(国際標準化団体)が定めたLPWA(Low Power Wide Area)通信規格です。既存のLTEネットワークのインフラを流用できるため、日本の主要な携帯電話事業者が対応サービスを提供しています。
利用者側は個別に電波免許を取得する必要はありません。携帯電話事業者のIoT向けSIMと対応モジュールを使用することで、すぐにサービスを開始できます。
LTE全体の電波法上の仕組みについては「LTEとは?電波法上の扱いと免許の仕組み」をご覧ください。
技術的な比較
| 比較項目 | LTE-M(eMTC) | NB-IoT |
|---|---|---|
| 標準規格 | 3GPP Release 13 | 3GPP Release 13 |
| 帯域幅 | 1.4MHz | 180kHz |
| 下り最大速度 | 約1Mbps | 約250kbps(最大) |
| 上り最大速度 | 約1Mbps | 約250kbps(最大) |
| 移動体への対応 | 対応可能(ハンドオーバーあり) | 低速移動のみ(頻繁な移動に不向き) |
| 音声通話 | VoLTEに対応 | 非対応 |
| 深いカバレッジ | 改善あり(MCLで約155dB) | 優れる(MCLで約164dB) |
| 消費電力 | 低い | 非常に低い(数年間バッテリー動作が可能) |
| 遅延 | 低め(10〜15ms程度) | 高め(数秒〜数十秒程度) |
| モジュールコスト | やや高め | 低い傾向 |
※MCL(Maximum Coupling Loss)は電波の届きにくさの指標です。数値が大きいほど深い地下や建物内など電波が届きにくい場所をカバーできます。
LTE-Mの強み
- 移動体への対応: ハンドオーバー(基地局間の切り替え)をサポートするため、移動するIoTデバイスに対応できます
- 音声通話対応: VoLTEによる音声通話が可能なため、緊急通報機能を持つウェアラブルデバイスなどに適しています
- 比較的高速: センサーデータの送受信だけでなく、ファームウェアアップデートなど、ある程度のデータ量を扱う用途に向いています
NB-IoTの強み
- 超省電力: 送受信頻度が低いデバイスの場合、電池1本で数年間動作することが期待できます
- 深いカバレッジ: 地下の設備・建物の奥など電波が届きにくい場所に強く、ガスメーター・水道メーターへの応用が進んでいます
- 低コストのモジュール: 帯域幅が狭く回路が単純なため、通信モジュールのコストを抑えられます
ユースケース別の選び方
どちらを選ぶべきかは、デバイスの移動性・送受信頻度・必要な遅延・設置場所によって異なります。
LTE-Mが向いているケース
- 移動するIoTデバイス: GPS追跡端末(物流の荷物追跡、車両管理)
- ウェアラブルデバイス: 介護施設の入居者の位置把握、ランナー向けデバイス
- 緊急通報機能付き機器: VoLTE対応が必要な機器
- 比較的大きなデータを定期送信: 画像を含む環境センサー
NB-IoTが向いているケース
- 設置場所が固定で電波が届きにくい: ガスメーター・水道メーター(地下・建物内)
- データ送信頻度が低い: 1日数回程度の定期データ送信
- 超低消費電力が求められる: 数年間バッテリー交換なしで動かしたいセンサー
- 大量展開でモジュールコストを抑えたい: スマートシティの大規模センサーネットワーク
用途別推奨まとめ
| ユースケース | 推奨 |
|---|---|
| 移動体の資産追跡 | LTE-M |
| スマートメーター(ガス・水道) | NB-IoT |
| 高齢者見守り端末 | LTE-M(移動・音声通話が必要な場合) |
| 農業用環境センサー | NB-IoT(省電力・固定設置) |
| 工場内の移動ロボット | LTE-M(移動対応) |
| ビルの駐車スペース管理 | NB-IoT(固定・超省電力) |
免許・手続きの観点
LTE-MもNB-IoTも、いずれも携帯電話事業者のLTEネットワークを活用するため、利用者が個別に電波免許を取得する必要はありません。
ただし、IoTシステムを使って第三者に通信サービスを提供する場合は、電気通信事業法に基づく届出または登録が必要になることがあります。
電気通信事業を営もうとする者は、総務大臣の登録を受けなければならない。ただし、その事業の規模が小さい場合として総務省令で定める場合は、この限りでない。
― 電気通信事業法 第9条(趣旨)
電気通信事業の届出・登録については「電気通信事業の届出が必要なケース|SaaS・Webサービス向け」および「IoT通信サービスの電気通信事業届出ガイド」をご覧ください。
LoRa・SigfoxなどのLPWAとの比較
LTE-MとNB-IoT以外にもLPWA規格は存在します。主なものとの位置づけの違いを整理します。
| 規格 | インフラ | 免許の要否 | 速度 | カバレッジ |
|---|---|---|---|---|
| LTE-M | 携帯電話事業者のLTE網 | 不要 | 中(〜1Mbps) | 全国(MNOエリア) |
| NB-IoT | 携帯電話事業者のLTE網 | 不要 | 低(〜250kbps) | 全国(MNOエリア) |
| LoRa(LoRaWAN) | 独自ゲートウェイまたは共用網 | 不要(920MHz帯) | 低(数kbps) | ゲートウェイに依存 |
| Sigfox | Sigfoxネットワーク | 不要 | 非常に低(100bps) | 都市部中心 |
LTE-MとNB-IoTは既存のLTEインフラを活用できるため、独自にゲートウェイを設置する必要がない点が大きなメリットです。免許不要LPWA技術全般については「LPWA通信の免許不要利用ガイド|LoRa・Sigfox」をご覧ください。
まとめ
LTE-MとNB-IoTはどちらも優れたIoT通信規格ですが、得意な分野が異なります。
- LTE-M: 移動対応・音声通話・比較的高速。位置情報追跡やウェアラブルに最適
- NB-IoT: 超省電力・深いカバレッジ・低コスト。固定センサーやスマートメーターに最適
- 免許の要否: いずれも利用者側は不要(携帯電話事業者のネットワーク利用)
- 電気通信事業: 第三者へのサービス提供には別途届出・登録が必要な場合がある
IoTシステムの通信方式は、デバイスの移動性・送受信頻度・設置環境・コストを総合的に判断して選定することが重要です。LTE-M・NB-IoT以外の業務用無線通信との比較は「IP無線は免許不要?業務用無線との違いを比較」もあわせてご覧ください。