目次
この記事でわかること
Starlinkに代表される非静止衛星(LEO: Low Earth Orbit)による通信が急速に普及しています。従来の静止衛星(GEO)を前提とした免許制度に加え、LEO衛星ならではの制度上の論点が生じています。
この記事では、LEO衛星通信の免許制度(人工衛星局・地球局)、静止衛星との制度上の違い、国際調整の仕組み、今後の規制動向を解説します。
LEO(非静止衛星)通信の概要
LEO通信の仕組み
LEO(Low Earth Orbit:低軌道)衛星は、高度約200〜2,000kmの軌道を周回する人工衛星です。地球の周りを約90分で一周するため、常に地上の特定地点から見える衛星が入れ替わります。
| 項目 | LEO衛星 | GEO(静止)衛星 |
|---|---|---|
| 軌道高度 | 200〜2,000km | 約36,000km |
| 周回周期 | 約90分〜2時間 | 約24時間(地球自転と同期) |
| 通信遅延 | 20〜40ms | 500〜700ms |
| 1基のカバーエリア | 狭い(移動する) | 広い(固定) |
| 必要な衛星数 | 多数(数十〜数千基) | 少数(1〜数基) |
LEO通信の利点
LEO衛星通信には、以下のような利点があります。
- 低遅延: 軌道高度が低いため、通信の往復遅延が20〜40ms程度と、静止衛星の約10分の1
- 全球カバー: 多数の衛星を配置することで、極地を含む全球をカバー可能
- 高速通信: 周波数の再利用やビームフォーミング技術により、高い通信容量を実現
主なLEO通信事業者
| 事業者 | 衛星数(計画含む) | 軌道高度 | 状況 |
|---|---|---|---|
| Starlink(SpaceX) | 数千基以上 | 約550km | サービス提供中 |
| OneWeb | 約650基 | 約1,200km | サービス提供中 |
| Project Kuiper(Amazon) | 約3,200基 | 590〜630km | 打ち上げ準備中 |
| Telesat Lightspeed | 約300基 | 約1,000km | 開発中 |
電波法における免許の枠組み
人工衛星局の免許
LEO衛星も、電波を発射する限り電波法上の人工衛星局に該当し、免許の対象です。
無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。 ― 電波法 第4条
ただし、LEO通信事業者の多くは外国事業者であり、日本国内で人工衛星局の免許を直接取得するのではなく、自国(多くは米国)の免許制度に基づいて運用しています。
地球局の免許
日本国内でLEO衛星通信を利用する場合、地球局側の免許が必要になるかどうかは、端末の種類によって異なります。
| 端末の種類 | 免許の要否 |
|---|---|
| 個人向け端末(技適あり) | 免許不要 |
| 事業者向けゲートウェイ局 | 免許が必要 |
| 船舶搭載端末 | 個別に確認が必要 |
| 航空機搭載端末 | 個別に確認が必要 |
技適取得済みのStarlink端末を個人が利用する場合、免許申請は不要です。一方、衛星通信事業者が日本国内に設置するゲートウェイ局(大型地球局)には免許が必要です。
静止衛星との制度上の違い
周波数管理の複雑さ
静止衛星は赤道上空の固定的な軌道位置から送受信を行います。このため、周波数の干渉管理は比較的予測しやすい構造でした。
LEO衛星は常に移動しているため、以下のような新たな問題が発生します。
- 動的な干渉: LEO衛星が移動するため、静止衛星の通信に対する干渉が時間とともに変化する
- ハンドオーバー: ユーザー端末が通信する衛星を次々に切り替えるため、周波数の使用状況が刻々と変化する
- 多数の衛星の管理: 数百〜数千基の衛星それぞれの周波数利用状況を管理する必要がある
ITUにおけるLEO衛星の規定
国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則では、非静止衛星に関する特別な規定が設けられています。
| 規定 | 内容 |
|---|---|
| 静止衛星の優先保護 | 非静止衛星は、静止衛星に有害な干渉を与えてはならない |
| EPFD制限 | 非静止衛星が静止衛星に与える干渉電力を一定以下に制限 |
| 調整手続き | 非静止衛星システム間の調整手続き |
EPFD(Equivalent Power Flux Density:等価電力束密度)は、LEO衛星が静止衛星に与える干渉を評価するための指標です。LEO事業者はこの基準を満たすために、送信電力の制御やビームの方向制御などの技術的措置を講じています。
免許手続きの違い
| 比較項目 | GEO衛星の地球局 | LEO衛星の地球局 |
|---|---|---|
| 通信の相手方 | 特定の衛星(固定) | 複数の衛星(入れ替わる) |
| アンテナの指向 | 固定方向 | フェーズドアレイ等で追尾 |
| 免許申請の記載 | 特定衛星の名称を記載 | 衛星コンステレーション名を記載 |
| 干渉調整 | 隣接衛星との調整 | 静止衛星との動的な干渉評価 |
LEO衛星の地球局は、通信の相手方として特定の1基の衛星ではなく、コンステレーション全体を指定する点が特徴的です。
ゲートウェイ局の免許
ゲートウェイ局とは
ゲートウェイ局は、LEO通信事業者が地上に設置する大型の地球局です。衛星とインターネットバックボーンを接続する役割を担っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 役割 | 衛星とインターネットの接続点 |
| アンテナ | 大型パラボラアンテナまたはフェーズドアレイ |
| 設置場所 | データセンター近傍等 |
| 免許 | 総務大臣の免許が必要 |
ゲートウェイ局の免許申請
日本国内にゲートウェイ局を設置する場合、固定地球局として免許を申請します。
| 申請のポイント | 内容 |
|---|---|
| 通信の相手方 | LEOコンステレーション名(例:Starlinkコンステレーション) |
| 使用周波数 | 衛星事業者が割り当てた周波数帯 |
| 干渉調整 | 静止衛星や地上系無線局との干渉評価 |
| EPFD計算 | 静止衛星への干渉が基準以下であることの確認 |
技適制度とLEO衛星端末
LEO衛星端末の技適
日本国内で販売されるLEO衛星通信の端末(Starlink等)は、技適(技術基準適合証明)を取得しています。技適取得済みの端末は免許不要で利用できます。
フェーズドアレイアンテナの技適
LEO衛星端末の多くは、電子的にビームの方向を制御するフェーズドアレイアンテナを採用しています。従来のパラボラアンテナとは技術的に異なるため、技適の審査でもフェーズドアレイ特有の特性(ビームパターン、EIRP制御等)が確認されます。
今後の規制動向
検討されている制度の見直し
LEO通信の普及を受けて、以下のような制度の見直しが検討されています。
| 検討事項 | 内容 |
|---|---|
| 非静止衛星の免許手続きの整備 | LEO衛星に対応した免許手続きの明確化 |
| 周波数共用ルールの見直し | LEO衛星と既存システムの周波数共用ルールの整備 |
| 技適制度のSDR対応 | ソフトウェア更新に対応した技適制度の整備 |
| 国際協調 | ITUでの議論への積極参加 |
WRC(世界無線通信会議)での議論
ITUのWRC(World Radiocommunication Conference)では、LEO衛星に関する国際的なルールの議論が行われています。特に、静止衛星とLEO衛星の共存や、LEO衛星向けの新たな周波数分配が主要な議題です。
日本の電波法や関連省令は、WRCの決議を踏まえて改正される可能性があります。
関連する免許制度
LEO通信の免許制度を理解するうえで、以下の関連記事もご参照ください。
- 人工衛星局の免許制度全般: 「人工衛星局の免許申請ガイド|制度の概要と手続きの流れ」
- Starlinkの日本利用: 「Starlinkの日本利用ガイド|免許・技適・届出のすべて」
- 衛星コンステレーションの電波法: 「衛星コンステレーション時代の電波法」
まとめ
非静止衛星(LEO)通信の免許制度に関する要点は以下のとおりです。
- LEO衛星は電波法上の人工衛星局に該当し、免許の対象
- 日本国内でのLEO通信利用は、地球局側の免許または技適で対応
- 技適取得済みの個人向け端末は免許不要
- 事業者のゲートウェイ局は固定地球局として免許が必要
- ITUの規定により、LEO衛星は静止衛星に有害な干渉を与えてはならない
- EPFD制限により、静止衛星への干渉が管理されている
- 今後、LEO通信の普及に伴う制度の見直しが検討されている
LEO衛星通信は技術・制度ともに変化の速い分野です。免許申請や制度の確認について不明な点がある場合は、電波法に精通した行政書士への相談をおすすめします。