目次
この記事でわかること
AIS(Automatic Identification System)は、船舶の位置・速力・針路等を自動的に送受信する装置です。衝突防止と海上交通の安全確保を目的として、一定の船舶に搭載が義務づけられています。
この記事では、AISの基本的な仕組み、クラスAとクラスBの違い、搭載義務の対象船舶、電波法上の免許手続き、MMSI番号との関係を実務的に解説します。
AISとは
AISは、VHF帯の電波を使用して船舶の航行データを自動的に送受信するシステムです。各船舶に搭載されたAISトランスポンダが、以下の情報を周囲の船舶や陸上のAIS基地局に送信します。
AISが送信する情報
| 情報の種類 | 具体的な内容 | 送信間隔 |
|---|---|---|
| 動的情報 | 船舶の位置(緯度・経度)、対地速力、対地針路、船首方位、旋回角速度 | 2〜10秒(航行状態により変動) |
| 静的情報 | MMSI番号、IMO番号、船名、コールサイン、船舶の種類、船体の大きさ | 6分ごと |
| 航海関連情報 | 喫水、積荷の種類、目的港、到着予定日時 | 6分ごと |
AISにより、レーダーでは識別しにくい小型船舶や、視界不良時の他船の動向を把握できます。
AISの使用周波数
AISは以下の2つの周波数を使用します。
- AIS 1: 161.975MHz(チャンネル87B)
- AIS 2: 162.025MHz(チャンネル88B)
これらはVHF帯の周波数であり、電波法上の無線局免許が必要です。
クラスAとクラスBの違い
AISトランスポンダには、クラスAとクラスBの2種類があります。
| 比較項目 | クラスA | クラスB |
|---|---|---|
| 対象 | SOLAS条約適用船舶(義務搭載) | 小型船舶・任意搭載 |
| 送信出力 | 12.5W | 2W(CS方式)/ 5W(SO-TDMA方式) |
| 送信間隔 | 2〜10秒 | 30秒〜3分 |
| 送信情報 | 全情報(動的・静的・航海関連) | 動的・静的情報 |
| 受信表示 | 必須(専用ディスプレイ又はチャートプロッター連動) | 任意 |
| メッセージ機能 | 安全関連メッセージの送受信可 | 受信のみ |
| 免許の種類 | 船舶局 | 船舶局 又は 特定船舶局 |
クラスAの特徴
クラスAは、SOLAS条約で搭載が義務づけられている船舶に搭載される高機能なAISトランスポンダです。送信出力が大きく、送信間隔も短いため、高精度な船舶追跡が可能です。
クラスBの特徴
クラスBは、小型船舶やレジャーボート等が任意で搭載するAISトランスポンダです。クラスAと比べて送信出力が小さく機能も限定的ですが、安価で導入しやすいのが特徴です。
搭載義務の対象船舶
国際条約(SOLAS条約)による義務
SOLAS条約第V章第19規則により、以下の船舶にAIS(クラスA)の搭載が義務づけられています。
- 国際航海に従事する総トン数300トン以上のすべての船舶
- 国際航海に従事しない総トン数500トン以上のすべての貨物船
- すべての旅客船(トン数にかかわらず)
国内法による義務
日本国内では、船舶安全法および関連省令により、SOLAS条約の適用を受けない船舶にも一定のAIS搭載義務が課されています。
船舶は、航海の安全を確保するために必要な設備として、国土交通省令で定めるところにより、AISを備えなければならない。
― 船舶安全法 第2条(趣旨要約)
具体的には、総トン数500トン以上の内航船等にも搭載義務があります。
搭載義務のない船舶
以下の船舶はAISの搭載義務がありません(ただし任意搭載は可能です)。
- 小型船舶(総トン数20トン未満)
- プレジャーボート
- 小型漁船
ただし、海上交通安全法が適用される海域を航行する場合は、安全のためにAIS(クラスB)の搭載が推奨されています。
AISの免許手続き
AISトランスポンダは電波を発射する無線設備であるため、電波法上の無線局免許が必要です。
クラスAの場合
クラスAのAISを搭載する場合は、船舶局の免許として申請します。多くの場合、GMDSS設備と合わせて一つの船舶局として免許を受けます。
船舶局の免許手続きについては船舶局の免許申請|開局手順と必要書類を参照してください。
クラスBの場合
クラスBのAISトランスポンダのうち、技術基準適合証明を受けた機器を使用する場合は、特定船舶局として包括免許を受けることができます。
特定船舶局の手続きについては特定船舶局の開局申請|レジャーボート・漁船向けをご確認ください。
MMSI番号の取得
AISの運用にはMMSI番号(海上移動業務識別番号)が必須です。MMSI番号は船舶局または特定船舶局の免許取得時に、総合通信局から割り当てられます。
MMSI番号をAISトランスポンダにプログラミングしなければ、正しく動作しません。MMSI番号が設定されていないAISを運用することは電波法違反となります。
AIS搭載時の技術的要件
アンテナの設置
AISのアンテナは、船舶の上部構造物の最上部付近に設置するのが理想です。VHF帯の通信は見通し距離に依存するため、アンテナの高さが通信距離に直結します。
設置時の注意点は以下のとおりです。
- GPSアンテナとVHFアンテナの両方が必要(一体型もある)
- 他のアンテナとの間隔を確保する(相互干渉を避けるため)
- 遮蔽物がない位置に設置する
他の航海計器との接続
AISは以下の航海計器と接続して使用するのが一般的です。
- 電子海図表示装置(ECDIS)
- チャートプロッター
- レーダー
- VDR(航海データ記録装置)
NMEA規格のデータポートを使用して接続します。
AIS-SARTとの違い
AIS-SART(AIS搜索救助用トランスポンダ)は、AISと名称が似ていますが目的が異なる装置です。
| 項目 | AIS(トランスポンダ) | AIS-SART |
|---|---|---|
| 目的 | 航行安全・衝突防止 | 遭難時の位置通報 |
| 使用場面 | 常時運用 | 遭難時のみ |
| GMDSS上の位置づけ | 航行安全設備 | 遭難用設備(SARTの代替) |
AIS-SARTはGMDSS設備の一部として搭載されます。GMDSSの詳細はGMDSSの概要と搭載義務|国際海上遭難安全システムを参照してください。
運用上の注意点
- AISの電源を切らない: 航行中はAISを常時動作させる義務がある
- 静的情報を正確に入力: 船名、コールサイン、船体寸法等を正しく設定する
- 航海関連情報を更新: 目的港や喫水が変わったら随時更新する
- AISは衝突回避の補助手段: レーダーや目視による見張りを代替するものではない
- 位置情報の精度はGPSに依存: GPS受信状態を常に確認する
まとめ
AISは、海上交通の安全と衝突防止に不可欠なシステムです。要点を整理します。
- AISはVHF帯で船舶の航行データを自動送受信する装置
- クラスA(義務搭載用)とクラスB(任意搭載用)の2種類がある
- SOLAS条約により総トン数300トン以上の国際航海船舶等に搭載義務
- AISの運用には電波法上の無線局免許とMMSI番号が必要
- クラスBは特定船舶局として簡易な手続きで免許取得可能
- AISは衝突回避の補助手段であり、目視やレーダーと併用する
AISの免許手続きについて不明点がある場合は、管轄の総合通信局または行政書士にご相談ください。