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この記事でわかること
漁船に無線設備を搭載する場合、一般の商船とは異なる漁業特有の手続きと規制があります。漁船は操業海域が多岐にわたり、海上での安全確保と操業効率の向上のために無線通信が欠かせません。
この記事では、漁業無線の種類と用途、漁船特殊規程に基づく搭載義務、免許申請の手順、漁業協同組合との関係、注意すべきポイントを解説します。
漁業無線とは
漁業無線は、漁船と陸上の漁業基地(漁業用海岸局)との間で行われる無線通信の総称です。電波法上は「船舶局」に分類されますが、漁船に搭載される無線設備には漁業特有の機能や周波数が割り当てられています。
漁業無線の主な用途
- 安全通信: 遭難・緊急通信、気象通報の受信
- 操業連絡: 漁場情報の共有、水揚げの連絡
- 市場情報: 魚価情報の入手、出荷先の調整
- 船舶間通信: 漁船同士の連絡
- 位置通報: 漁協や家族への安否確認
漁船に搭載される無線設備の種類
漁船に搭載される主な無線設備は以下のとおりです。
| 設備の種類 | 周波数帯 | 用途 |
|---|---|---|
| 漁業用無線電話(MF/HF帯) | 1.6〜27.5MHz | 漁業用海岸局との通信、漁船間通信 |
| 国際VHF | 156〜162MHz | 安全通信、港湾管理通信 |
| 27MHz帯無線電話 | 27MHz帯 | 近距離の漁船間通信 |
| 船舶レーダー | 9GHz帯 | 航行安全、漁場探索 |
| AIS | 161〜162MHz | 船舶自動識別 |
| EPIRB | 406MHz | 遭難時の位置通報 |
| GPS受信機 | – | 位置の測定(受信のみ・免許不要) |
| 魚群探知機 | 超音波 | 魚群の探索(電波を使用しないため免許不要) |
漁船特殊規程に基づく搭載義務
漁船への無線設備の搭載義務は、船舶安全法に基づく漁船特殊規程で定められています。一般商船とは異なる基準が適用される点に注意が必要です。
搭載義務の基準
漁船の無線設備搭載義務は、漁船のトン数と従業区域(漁船が操業する海域)によって決まります。
| 従業区域 | トン数 | 主な搭載義務 |
|---|---|---|
| 遠洋区域 | すべて | MF/HF無線電話、EPIRB、国際VHF、レーダー |
| 近海区域 | 20トン以上 | MF/HF無線電話(又は国際VHF)、レーダー |
| 沿海区域 | 20トン以上 | 国際VHF(又は無線電話)、レーダー(一定以上) |
| 平水区域 | – | 義務は限定的 |
小型漁船(総トン数20トン未満)の場合、搭載義務は軽減されますが、安全のために国際VHFの搭載が強く推奨されています。
漁船と商船の搭載義務の違い
漁船は商船と比べて以下の点で異なる規制を受けます。
- SOLAS条約の直接適用を受けない(漁船はSOLAS条約の適用対象外)
- 代わりに漁船安全条約(トレモリノス議定書)の基準が参考にされる
- 国内では漁船特殊規程が独自の基準を設定
- 従業区域は航行区域とは異なる概念で定められている
免許申請の手順
Step 1: 従業区域と搭載義務の確認
まず、漁船の従業区域と総トン数から搭載義務のある無線設備を確認します。従業区域は漁船の漁船登録票に記載されています。
Step 2: 無線設備の選定
搭載義務のある設備を基に、必要な無線設備を選定します。選定時の注意点は以下のとおりです。
- 技術基準適合証明(技適)を受けた機器を選ぶ
- 漁業用周波数に対応した機器を選ぶ
- 防水・耐振動性能が十分な製品を選ぶ(漁船の使用環境は厳しい)
- 操作が簡単な機器を選ぶ(緊急時に迅速に操作できること)
Step 3: 無線従事者資格の確認
漁船の船舶局を操作するには、設備に応じた無線従事者資格が必要です。
| 設備 | 必要な資格(最低限) |
|---|---|
| MF/HF無線電話 | 第三級海上無線通信士以上 |
| 国際VHF(25W) | 第二級海上特殊無線技士以上 |
| 国際VHF(5W) | 第三級海上特殊無線技士以上 |
| レーダー | レーダー級海上特殊無線技士以上 |
漁業者が最もよく取得する資格は第二級海上特殊無線技士または第三級海上特殊無線技士です。養成課程(講習)で短期間に取得できます。資格の詳細は海上無線通信士の資格一覧|種類と取得方法を参照してください。
Step 4: 申請書類の準備
漁業無線の免許申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 無線局免許申請書(総務省所定様式)
- 無線局事項書(通信の相手方に漁業用海岸局を含める)
- 工事設計書(無線設備の技術的諸元)
- 漁船登録票の写し(従業区域の確認のため)
- 船舶検査証書の写し
- 無線従事者の資格証明書の写し
- 手数料の納付を証する書類
国際VHFのみを使用し、技適マーク付き機器を用いる場合は、特定船舶局として簡易な手続きで免許を受けられます。特定船舶局については特定船舶局の開局申請|レジャーボート・漁船向けをご確認ください。
Step 5: 総合通信局への提出
申請書類を漁船の主たる根拠港を管轄する総合通信局に提出します。
無線局の免許を受けようとする者は、総務省令で定める手続により、総務大臣に申請しなければならない。
― 電波法 第6条
Step 6: 審査・予備免許・落成検査
総合通信局による審査の後、予備免許が交付されます。無線設備の設置工事を行い、落成検査を受けて合格すると本免許が交付されます。
ただし、技適マーク付き機器のみの場合や特定船舶局の場合は、落成検査が省略されることがあります。
漁業用海岸局との関係
漁船の船舶局は、陸上に開設された漁業用海岸局と通信を行います。漁業用海岸局は主に漁業協同組合(漁協)が開設・運営しています。
漁協の漁業用海岸局の役割
- 漁船との定時連絡: 操業状況の確認、安否確認
- 気象情報の送信: 荒天時の注意喚起
- 市場情報の提供: 水揚げ情報、魚価情報
- 遭難時の通報中継: 海上保安庁への連絡
- 入出港の管理: 漁船の動静把握
漁船を新造または中古購入した際は、所属する漁協に連絡し、漁業用海岸局との通信チャンネルや呼出手順を確認してください。
注意すべきポイント
漁業用周波数の使用
漁業用に割り当てられた周波数は、漁業通信以外の目的で使用できません。漁業用周波数を使用する場合は、通信の相手方や通信事項に漁業関連の内容を記載する必要があります。
船舶検査との連携
漁船の無線設備は、国土交通省(日本小型船舶検査機構等)の船舶検査と、総務省の無線局免許の両方の手続きが必要です。両方の検査時期を調整して効率的に手続きを進めることが重要です。
免許の有効期間
船舶局の免許の有効期間は5年です。再免許申請は有効期間満了の6か月前から1か月前までに行います。漁期の繁忙期と重ならないよう、余裕を持って手続きを進めてください。
電波利用料
船舶局の免許を取得すると、毎年電波利用料の納付が必要です。料額については船舶・航空無線の電波利用料|料額一覧と納付をご確認ください。
費用の目安
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 漁業用MF/HF無線電話 | 200,000〜500,000円 |
| 国際VHF無線機(据置型) | 50,000〜150,000円 |
| 免許申請手数料(新規) | 3,550円〜 |
| 第三級海上特殊無線技士(養成課程) | 20,000〜30,000円 |
| 電波利用料(年額) | 設備により異なる |
まとめ
漁業無線の免許申請は、漁船特有の制度を理解したうえで進める必要がある手続きです。要点を整理します。
- 漁船の無線設備搭載義務は漁船特殊規程で定められている
- 搭載義務の基準は従業区域とトン数で決まる
- 漁業用周波数は漁業通信専用であり他目的使用は不可
- 免許申請先は根拠港を管轄する総合通信局
- 国際VHFのみなら特定船舶局として簡易な手続きが可能
- 漁協の漁業用海岸局との通信チャンネルを事前に確認する
- 船舶検査と無線局免許の両方の手続きが必要
漁業無線の免許手続きに不安がある場合は、行政書士にご相談ください。漁協を通じた手続きのサポートも可能です。