目次
この記事でわかること
衛星通信では、用途やサービスの種類に応じてさまざまな周波数帯が使い分けられています。周波数帯によって通信速度、降雨減衰の影響、必要なアンテナサイズなどが異なるため、適切な周波数帯の選択が衛星通信システムの設計において極めて重要です。
この記事では、衛星通信で使用される主要な周波数帯(L帯・S帯・C帯・Ku帯・Ka帯・V帯)の特徴、用途、メリット・デメリットを一覧で解説します。
周波数帯の基本知識
周波数と波長の関係
電波は周波数が高いほど波長が短くなります。衛星通信においては、この特性が通信性能やアンテナ設計に大きく影響します。
| 周波数 | 波長 | 一般的な傾向 |
|---|---|---|
| 低い(1GHz付近) | 長い(約30cm) | 降雨減衰に強い、低速、大型アンテナ不要 |
| 高い(30GHz付近) | 短い(約1cm) | 降雨減衰に弱い、高速、小型アンテナで利得確保 |
電波法における周波数の管理
日本国内で使用する電波の周波数は、総務省の周波数割当計画に基づいて管理されています。
総務大臣は、電波の公平かつ能率的な利用を確保するため、(中略)周波数の割当てを行う。 ― 電波法 第26条(要旨)
衛星通信用の周波数帯は、国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則に基づいて国際的に分配されており、日本の周波数割当計画もこれに準拠しています。
衛星通信の主要周波数帯一覧
| 周波数帯 | 周波数範囲 | 上り(地球局→衛星) | 下り(衛星→地球局) |
|---|---|---|---|
| L帯 | 1〜2GHz | 1.6GHz帯 | 1.5GHz帯 |
| S帯 | 2〜4GHz | 2.6GHz帯 | 2.5GHz帯 |
| C帯 | 4〜8GHz | 6GHz帯 | 4GHz帯 |
| Ku帯 | 12〜18GHz | 14GHz帯 | 12GHz帯 |
| Ka帯 | 26.5〜40GHz | 30GHz帯 | 20GHz帯 |
| V帯 | 40〜75GHz | 50GHz帯 | 40GHz帯 |
各周波数帯の詳細
L帯(1〜2GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | 衛星携帯電話、海上通信、航空通信 |
| 代表的サービス | イリジウム、インマルサット、GPS |
| アンテナサイズ | 小型(端末内蔵も可能) |
| 通信速度 | 低速(音声通話・低速データ向け) |
L帯は波長が長く降雨減衰の影響が小さいため、移動体通信(携帯電話・船舶・航空機)に適しています。一方、帯域幅が狭いため、大容量のデータ通信には向きません。
衛星携帯電話の詳細は「衛星携帯電話の免許と利用方法|イリジウム・サーストン」をご覧ください。
S帯(2〜4GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | 気象衛星、一部の通信衛星、衛星ラジオ |
| 代表的サービス | 気象衛星ひまわりのデータ配信 |
| アンテナサイズ | 比較的小型 |
| 通信速度 | 低〜中速 |
S帯は、L帯とC帯の中間的な特性を持ちます。気象衛星からのデータ配信や、一部の移動通信サービスで利用されています。近年は衛星と地上ネットワークを統合するサービスでの利用も検討されています。
C帯(4〜8GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | 大型地球局間の通信、放送素材伝送、国際通信 |
| 代表的サービス | JCSAT(一部)、インテルサット |
| アンテナサイズ | 大型(直径3m以上が一般的) |
| 通信速度 | 中速 |
C帯は降雨減衰に強いという大きなメリットがあります。熱帯地域など降雨量の多い地域では、Ku帯やKa帯よりも安定した通信が可能です。ただし、地上のマイクロ波通信との周波数共用の問題があり、都市部では干渉が発生しやすくなります。
また、C帯のアンテナは大型になるため、設置場所の確保やコストの面で課題があります。
Ku帯(12〜18GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | VSAT通信、衛星放送(BS/CS)、報道中継 |
| 代表的サービス | JCSAT、BS放送、Starlink(一部) |
| アンテナサイズ | 中型(直径0.6〜2.4m) |
| 通信速度 | 中〜高速 |
Ku帯は、日本国内のVSAT局で最も多く利用されている周波数帯です。C帯に比べて小型のアンテナで十分な利得を確保できるため、設置コストを抑えられるメリットがあります。
一方、降雨減衰の影響がC帯より大きいため、豪雨時には通信品質が低下する場合があります。回線設計時には降雨マージンを適切に見込む必要があります。
VSAT局の免許申請については「VSAT(衛星通信)の免許申請|手続きの流れと費用」で解説しています。
Ka帯(26.5〜40GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | 高速衛星インターネット、次世代VSAT |
| 代表的サービス | Starlink、ViaSat、次世代衛星通信 |
| アンテナサイズ | 小型〜中型 |
| 通信速度 | 高速 |
Ka帯は広い帯域幅を確保でき、高速通信に適している周波数帯です。Starlinkなどの次世代衛星通信サービスでは、Ka帯が積極的に利用されています。
ただし、降雨減衰の影響がKu帯よりもさらに大きく、日本のような多雨地域では回線品質の維持が課題になります。降雨減衰への対策として、送信電力の自動制御(APC)や適応変調(ACM)などの技術が採用されています。
V帯(40〜75GHz)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な用途 | 次世代衛星間通信、超高速通信(研究段階) |
| アンテナサイズ | 小型 |
| 通信速度 | 超高速(理論値) |
V帯は、Ka帯をさらに上回る広帯域が確保できる周波数帯ですが、降雨減衰の影響が極めて大きく、現時点では研究開発段階にあります。将来的な衛星通信の大容量化に向けて、V帯の活用が検討されています。
周波数帯の選び方
用途別の推奨周波数帯
| 用途 | 推奨周波数帯 | 理由 |
|---|---|---|
| 衛星携帯電話 | L帯 | 小型端末で利用可能、移動体対応 |
| 企業間VSAT通信 | Ku帯 | コストと性能のバランスが良い |
| 高速インターネット | Ka帯 | 広帯域で高速通信が可能 |
| 災害時バックアップ | Ku帯 or C帯 | 安定性を重視する場合はC帯 |
| 海上・航空通信 | L帯 or Ku帯 | 移動体対応と速度の要件による |
降雨減衰の比較
日本は降雨量が多い地域であるため、降雨減衰は周波数帯選択の重要な要素です。
| 周波数帯 | 降雨減衰の影響 | 対策 |
|---|---|---|
| L帯 | 極めて小さい | 特になし |
| C帯 | 小さい | 特になし |
| Ku帯 | 中程度 | 降雨マージンの確保 |
| Ka帯 | 大きい | APC、ACM等の技術的対策 |
| V帯 | 極めて大きい | 研究段階 |
免許申請における周波数の記載
地球局の免許申請では、工事設計書に使用する周波数を正確に記載する必要があります。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 送信周波数 | 上り回線の周波数範囲 |
| 受信周波数 | 下り回線の周波数範囲 |
| 占有周波数帯幅 | 信号が占める帯域幅 |
| 偏波方式 | 直線偏波、円偏波等 |
周波数の記載は、衛星事業者から割り当てられた値と正確に一致させる必要があります。
まとめ
衛星通信の周波数帯に関する要点は以下のとおりです。
- 衛星通信ではL帯からV帯まで幅広い周波数帯が使い分けられている
- Ku帯が日本国内のVSAT局で最も一般的
- Ka帯は高速通信向けで、Starlinkなどの次世代サービスで活用
- 降雨減衰は日本での衛星通信において重要な考慮事項
- 周波数が高いほど大容量通信が可能だが、降雨減衰の影響が大きい
- 免許申請では工事設計書に周波数を正確に記載する必要がある
周波数帯の選択は、衛星通信システムの性能とコストを左右する重要な要素です。用途に応じた最適な周波数帯の選定について、専門的なアドバイスが必要な場合は、電波法に精通した行政書士への相談をおすすめします。