目次
この記事でわかること
2024年11月27日、総務省は5.8GHz帯をドローンの映像伝送に使用できる「特定実験試験局」の制度を告示しました。これは、海外で標準的に使われている5.8GHz帯を日本でも研究開発・実証実験の目的で利用しやすくするための新しい枠組みです。
この記事では、制度が作られた背景、特定実験試験局とは何か、対象者と申請方法、通常の実験試験局との違い、今後の正式制度化の見通しまでまとめて解説します。
FPVドローンと電波法の関係
FPVドローンの映像伝送には、主に5.8GHz帯の電波が使われます。しかし、日本では5.8GHz帯はアマチュア無線の周波数帯として割り当てられており、FPVドローンで使用するにはアマチュア無線技士の資格と無線局の開局が必要です。
何人も、総務大臣の免許を受けなければ、無線局を開設してはならない。
― 電波法 第4条
さらに、アマチュア無線は業務利用(営利目的)が禁止されているため、FPVドローンを仕事で使うことに制約がありました。この問題を解決するための一つの方策として、特定実験試験局の制度が整備されました。
制度が作られた背景
海外との規制の違い
海外(特に米国、EU)では、5.8GHz帯はISMバンド(産業・科学・医療用の周波数帯)に含まれ、ドローンの映像伝送に広く利用されています。FPVドローンの製品は5.8GHz帯対応が世界標準であり、海外製品の多くがこの周波数帯を前提に設計されています。
一方、日本では5.8GHz帯がアマチュア無線に割り当てられているため、以下の制約がありました。
| 項目 | 海外(米国・EU) | 日本 |
|---|---|---|
| 5.8GHz帯の位置づけ | ISMバンド(免許不要で使用可) | アマチュア無線帯(免許必要) |
| 業務利用 | 可能 | 不可(アマチュア無線は営利目的禁止) |
| 機器の認証 | FCC認証等で流通 | 技適未取得のものがほとんど |
この規制の違いが、日本でのFPVドローン産業の発展を妨げる要因の一つになっていました。
業務用FPVドローンの需要増加
ドローンによる空撮、点検、測量などの業務で、FPVの一人称視点が有用であることが認められ、業務用途での5.8GHz帯利用のニーズが高まっていました。
特に以下の分野での需要が増加しています。
- インフラ点検: 橋梁、送電線、ビル外壁の近接撮影
- 映像制作: 映画、CM、スポーツ中継のダイナミックな空撮
- 農業: 圃場の精密モニタリング
- 研究開発: ドローンメーカーの製品開発・性能評価
総務省の対応
こうした状況を踏まえ、総務省は2024年11月27日に5.8GHz帯を対象とした特定実験試験局の告示を行いました。これにより、研究開発や実証実験の目的であれば、アマチュア無線の枠組みではなく特定実験試験局として5.8GHz帯を使用できるようになりました。
特定実験試験局とは
実験試験局の基本
実験試験局とは、電波法で定められた無線局の種類の一つで、科学・技術の発達のための実験、電波の利用の効率性に関する試験、電波の利用の需要に関する調査を目的とする無線局です。
科学若しくは技術の発達のための実験、電波の利用の効率性に関する試験又は電波の利用の需要に関する調査に専用する無線局
― 電波法施行規則 第4条第1項第20号
通常の実験試験局は個別に周波数調整を行う必要があり、免許取得までに数ヶ月かかることもあります。この手続きの煩雑さが研究開発のスピードを妨げる要因となっていました。
特定実験試験局の特徴
特定実験試験局は、実験試験局の中でもあらかじめ告示された周波数・条件に基づいて開局できる制度です。通常の実験試験局よりも迅速に免許を取得できるのが最大の特徴です。
| 項目 | 通常の実験試験局 | 特定実験試験局 |
|---|---|---|
| 周波数 | 個別に調整・審査 | 告示で指定された周波数を使用 |
| 免許処理期間 | 数ヶ月 | 大幅に短縮(告示条件に適合すれば迅速処理) |
| 申請の複雑さ | 高い(個別審査) | 比較的簡便(告示条件への適合を示す) |
| 免許の有効期間 | 最長5年 | 最長5年 |
| 用途 | 実験・試験全般 | 告示で定められた範囲の実験・試験 |
特定実験試験局の制度自体は5.8GHz帯に限らず、さまざまな周波数帯で活用されています。今回の告示で5.8GHz帯がドローン映像伝送用として追加された形です。
5.8GHz帯特定実験試験局の概要
2024年11月に告示された5.8GHz帯の特定実験試験局は、ドローンの映像伝送に関する実験・試験を対象としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象周波数 | 5.8GHz帯(告示で指定された範囲) |
| 用途 | ドローンの映像伝送に関する実験・試験・調査 |
| 空中線電力 | 告示で定められた上限値以内 |
| 対象者 | メーカー、研究機関、実証実験を行う事業者等 |
| 免許の有効期間 | 最長5年 |
| 告示の有効期間 | 2026年3月31日まで(延長の可能性あり) |
注意: この告示で定められた周波数範囲の使用可能期間は2026年3月31日までと設定されています。期間終了後の扱いについては、実験データの蓄積状況を踏まえて総務省が判断する見通しです。
DSRCとの周波数共用の課題
5.8GHz帯は日本国内でDSRC(専用狭域通信)にも利用されています。DSRCはETCや高速道路のITSスポットで使われている通信システムで、既存のDSRCシステムへの干渉防止が特定実験試験局を運用する際の大きな課題です。
| 5.8GHz帯の利用者 | 用途 | 周波数範囲 |
|---|---|---|
| DSRC | ETC、ITSスポット | 5.770〜5.850GHz付近 |
| アマチュア無線 | 個人的な無線技術研究 | 5.650〜5.850GHz |
| 特定実験試験局(ドローン) | ドローン映像伝送の実験 | 告示で指定された範囲 |
このため、特定実験試験局の運用には使用地域の制限や出力の制限が設けられており、DSRCに影響を与えないよう配慮されています。総務省は2025年に5.8GHz帯特定実験試験局の使用可能地域に関するニーズ調査も実施しており、今後の制度設計に反映される見込みです。
対象者
特定実験試験局は全ての個人が対象ではありません。主な対象者は以下のとおりです。
対象となる方
- ドローンメーカー: 5.8GHz帯対応製品の研究開発・性能評価
- 研究機関・大学: ドローン映像伝送技術の研究
- 実証実験を行う事業者: 国や自治体の実証事業に参加する企業
- 映像伝送技術の開発者: VTXや受信システムの開発
対象とならない方
- 個人の趣味としてFPVドローンを飛ばしたい方: 従来どおりアマチュア無線局としての開局が必要です
- 業務での常用: 特定実験試験局はあくまで「実験・試験」が目的です。恒常的な業務利用は対象外です
個人のFPVドローン利用については、引き続き「FPVドローンの始め方|免許・機体・申請の全手順まとめ」で解説しているアマチュア無線の手続きが必要です。
業務用FPVドローンとの使い分け
5.8GHz帯の特定実験試験局と、従来から利用可能な5.7GHz帯の業務用無線局はどう使い分けるのか、整理します。
| 項目 | 5.7GHz帯 業務用無線局 | 5.8GHz帯 特定実験試験局 |
|---|---|---|
| 目的 | 恒常的な業務利用 | 実験・試験・調査 |
| 対象周波数 | 5.7GHz帯 | 5.8GHz帯 |
| 必要な資格 | 第三級陸上特殊無線技士以上 | 無線従事者(設備に応じる) |
| 利用可能な期間 | 免許期間中は継続利用可 | 告示の有効期間内 |
| 機器の選択肢 | 5.7GHz帯対応VTX(限定的) | 海外標準の5.8GHz帯VTXが使用可能 |
| 費用 | 開局申請 3,550円 + 資格取得費用 | 開局申請費用 + 実験計画策定 |
業務で恒常的にFPVドローンを使用する場合は、5.7GHz帯の業務用無線局のほうが適切です。一方、5.8GHz帯の機器を研究開発目的でテストしたい場合は特定実験試験局が適しています。
5.7GHz帯の業務用無線局については「FPVドローンの業務利用|5.7GHz帯の開局方法」で解説しています。
申請方法
必要な手続きの流れ
特定実験試験局の免許を取得するには、以下の流れで手続きを行います。
Step 1: 実験計画を策定する
まず、5.8GHz帯を使用する実験・試験の計画を策定します。計画には以下の内容を含める必要があります。
- 実験の目的と内容
- 使用する周波数と空中線電力
- 実験を行う場所と期間
- 他の無線局への干渉防止策
Step 2: 無線設備の技術基準への適合を確認する
使用するVTXやアンテナが、告示で定められた技術基準に適合していることを確認します。具体的には以下の項目です。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 周波数 | 告示で指定された5.8GHz帯の範囲内 |
| 空中線電力 | 告示で定められた上限値以内 |
| スプリアス発射 | 帯域外の不要輻射が基準値以内 |
| 占有周波数帯幅 | 基準値以内 |
Step 3: 総合通信局に免許申請を行う
管轄の総合通信局に無線局免許申請を提出します。申請書類には以下が含まれます。
- 無線局免許申請書
- 無線局事項書
- 工事設計書(系統図、技術仕様)
- 実験計画書
- 干渉防止に関する説明資料
Step 4: 審査・免許の交付
総合通信局で審査が行われます。特定実験試験局は告示条件への適合を確認する形式のため、通常の実験試験局よりも審査が迅速です。審査通過後、無線局免許状が交付されます。
通常の実験試験局との違い
| 項目 | 通常の実験試験局 | 5.8GHz帯特定実験試験局 |
|---|---|---|
| 周波数の指定方法 | 個別申請で調整 | 告示で事前に指定 |
| 申請の手間 | 周波数調整が必要で複雑 | 告示条件に合えば比較的簡便 |
| 審査期間 | 長い(数ヶ月) | 短縮される |
| 対象周波数 | 広範囲 | 5.8GHz帯に限定 |
| 用途 | 実験・試験全般 | ドローン映像伝送に関する実験・試験 |
最大の違いは周波数の調整が不要な点です。通常の実験試験局では個別に周波数調整を行う必要がありますが、特定実験試験局は告示で周波数が指定されているため、申請から免許取得までの期間が大幅に短縮されます。
アマチュア無線局との違い
FPVドローンユーザーにとって重要なのは、特定実験試験局とアマチュア無線局の違いです。
| 項目 | アマチュア無線局 | 特定実験試験局 |
|---|---|---|
| 目的 | 個人的な興味・技術研究 | 科学技術の実験・試験 |
| 業務利用 | 不可 | 実験目的なら可能 |
| 必要な資格 | アマチュア無線技士 | 無線従事者(種別は設備に応じる) |
| 電波利用料 | 年額300円 | 設備に応じた額 |
| 恒常的な運用 | 可能 | 実験期間中のみ |
| 個人利用 | 可能 | 原則として法人・研究機関 |
個人の趣味としてFPVドローンを飛ばすなら、従来どおりアマチュア無線局での開局が適切です。特定実験試験局は主にメーカーや研究機関がドローン映像伝送技術の開発・検証を行うための枠組みです。
申請にあたっての実務的なポイント
実験計画書の書き方のコツ
特定実験試験局の申請では実験計画書の質が審査のポイントになります。以下の要素を盛り込むと、審査がスムーズに進みます。
- 実験の目的を具体的に記載: 「ドローン映像伝送の研究」のような抽象的な表現ではなく、「5.8GHz帯でのFHSS方式映像伝送の遅延特性評価」など具体的な技術課題を明記する
- 実験期間と場所を明確にする: いつ、どこで実験を行うかを具体的に記載する。使用可能地域の制限があるため、事前に確認が必要
- 干渉防止策を詳細に記載: DSRCシステムへの干渉を防ぐための具体的な措置(出力制限、使用時間帯の限定、使用場所の選定理由等)を盛り込む
- 実験結果の活用方法を記載: 得られたデータをどのように活用するかを示す
必要な無線従事者の資格
特定実験試験局を操作するために必要な無線従事者の資格は、設備の出力や種別に応じて異なります。
| 空中線電力 | 必要な資格の目安 |
|---|---|
| 1W以下 | 第三級陸上特殊無線技士以上 |
| 1W超〜10W以下 | 第一級陸上特殊無線技士以上 |
| 10W超 | 総合通信局に個別確認 |
FPVドローンのVTXは一般的に出力1W以下のものが多いため、第三級陸上特殊無線技士の資格が一つの目安となります。ただし、正確な要件は設備の構成によって異なるため、必ず管轄の総合通信局に事前確認してください。
無線従事者資格の全体像は「無線従事者とは?資格の種類と取得方法」をご覧ください。
今後の正式制度化の見通し
5.8GHz帯の特定実験試験局制度は、将来的な正式制度化への橋渡しと位置付けられています。
想定されるロードマップ
| 段階 | 内容 | 時期(想定) |
|---|---|---|
| 第1段階 | 特定実験試験局として実験・試験目的で利用可能 | 2024年11月〜 |
| 第2段階 | 使用可能地域のニーズ調査と拡大検討 | 2025年〜 |
| 第3段階 | 実験結果を踏まえた技術基準の策定 | 未定 |
| 第4段階 | 5.8GHz帯の正式な業務用周波数としての割当て | 未定(数年後) |
現在の告示の有効期間は2026年3月31日までですが、実験データの蓄積状況や業界からのニーズに応じて延長される可能性があります。正式な制度化が実現すれば、5.8GHz帯を業務用途で恒常的に利用できるようになり、FPVドローンの産業利用が大幅に促進される見込みです。
注目すべきポイント
- 技術基準の策定: 実験データに基づいて、5.8GHz帯のドローン用映像伝送に適した技術基準が定められる見通し
- DSRCとの共用条件の整理: DSRC(ETC等)への干渉を防ぎつつドローン利用を可能にする具体的な共用条件の策定が進む見込み
- 既存の利用者との調整: 5.8GHz帯はアマチュア無線にも割り当てられているため、周波数の共用に関する検討が必要。JARLは5.6GHz帯アマチュアバンドへの影響を危惧する意見を表明している
- 国際的な整合性: 海外の規制との調和が進めば、海外製FPV機器の日本国内での利用が容易になる可能性がある
- 無人航空機の上空利用に係る周波数拡大: 総務省は携帯電話やWi-Fiのドローン上空利用についても別途検討を進めており、5.8GHz帯の議論と並行して進展する見通し
事業者が今からできる準備
正式な制度化を見据えて、事業者が今からできる準備を整理します。
- 特定実験試験局の免許を取得して実績を積む: 実験データの蓄積は制度化の議論に反映される可能性がある
- 5.7GHz帯での業務運用体制を確立する: 正式制度化までの間、業務利用は5.7GHz帯で行う
- 海外の動向を注視する: 欧州や米国での5.8GHz帯ドローン利用の規制動向は、日本の制度設計に影響を与える
- 業界団体への参画: 総務省の意見募集やパブリックコメントに意見を提出することで、制度設計に関与できる
FPVドローンで使える周波数帯の全体像は「FPVドローンで使える周波数帯|5.7GHz・5.8GHzの違い」をご覧ください。
よくある質問
Q. 個人のFPVドローン趣味で特定実験試験局を申請できる?
原則としてできません。特定実験試験局は「科学・技術の発達のための実験」が目的です。個人の趣味としてのFPV飛行は、従来どおりアマチュア無線局として開局してください。
Q. 5.8GHz帯が正式に業務用に開放されるのはいつ?
時期は未定です。特定実験試験局での実験データの蓄積と、技術基準の策定を経て判断されます。正式な制度化まで数年かかる可能性があります。
Q. 特定実験試験局で得たデータは公開が必要?
総務省に実験結果の報告が求められる場合があります。実験試験局の免許条件として、実験結果の報告義務が課されることがあります。具体的な条件は免許時に確認してください。
Q. アマチュア無線の資格があれば特定実験試験局も開局できる?
アマチュア無線技士の資格だけでは原則として不十分です。特定実験試験局は「アマチュア局」ではないため、アマチュア無線技士の資格では操作できない場合があります。一般的には第三級陸上特殊無線技士以上の資格が必要です。詳細は管轄の総合通信局に事前に確認してください。
Q. 特定実験試験局の免許期間が終了したらどうなる?
免許の有効期間が満了すると、実験試験局の運用はできなくなります。引き続き実験を行いたい場合は、告示が延長されていれば再度免許申請を行います。告示が延長されない場合は、別の枠組み(通常の実験試験局等)での申請を検討する必要があります。
Q. 個人事業主でも特定実験試験局を申請できる?
実験・試験の目的が明確であれば、個人事業主でも申請は可能です。ただし、「科学・技術の発達のための実験」という目的を満たす実験計画が必要です。単に「FPVドローンを業務で使いたい」という理由では認められません。ドローン映像伝送技術の研究開発や性能検証を行う具体的な計画を策定してください。
Q. 特定実験試験局とアマチュア無線局を同時に持つことはできる?
はい、可能です。特定実験試験局とアマチュア無線局は別の無線局として扱われるため、両方の免許を同時に保有できます。趣味のFPV飛行はアマチュア無線局で、業務に関連する実験は特定実験試験局で行うという使い分けが可能です。
まとめ
5.8GHz帯特定実験試験局は、日本のFPVドローン産業の発展に向けた重要な一歩です。
- 2024年11月27日に総務省が告示した新制度
- 研究開発・実証実験の目的で5.8GHz帯をドローン映像伝送に使用可能
- 対象はメーカー・研究機関等で、個人の趣味利用は対象外
- 通常の実験試験局より申請が簡便で審査が迅速
- 将来の正式な業務用周波数としての割当てにつながる可能性
- 告示の有効期間は2026年3月31日まで(延長の可能性あり)
- DSRCとの周波数共用が技術的課題で、使用地域・出力に制限あり
- 業務での恒常的なFPV利用には5.7GHz帯の業務用無線局が現時点では適切
個人でFPVドローンを始めたい方は「FPVドローンの始め方|免許・機体・申請の全手順まとめ」を、FPVドローンの免許全体については「FPVドローンに必要な免許|アマチュア無線+開局申請ガイド」をご覧ください。業務用の5.7GHz帯開局は「5.7GHz帯FPVドローンの開局申請」で解説しています。